【記事公開日】令和2年12月15日
【最終更新日】-
【目次】
遺産分割前の相続預金の払い戻し制度
令和元年7月1日から法改正により、相続財産のうち預貯金について、法定相続人は遺産分割を行う前でも金融機関に対して単独で預貯金の一部払い戻しを請求することができるようになりました。
相続発生後には当面の生活費に加え葬儀などでお金が必要になりますが、亡くなった方の預金口座に生活資金をまとめていた場合、口座が一時的に凍結されてしまい急な出費に対応できない…という問題にこの法改正で対応した形になります。
通常亡くなった方の預金口座については、戸籍一式に加え遺言または各相続人の実印を押印し印鑑証明書を添付した遺産分割協議書・相続届等を提出しないと預金の払い戻し請求ができず、相続人が預金を受け取るまでに相続発生から2~3か月かかることも良くあります。
ちなみに葬祭費や埋葬料、国民年金の死亡一時金といった家族の死亡に関する補助金・給付金がありますが、それだけで葬儀費用や生活費を賄うことはできませんし、振り込まれるのは申請から1か月前後かかるため、急な出費への対応という点では今一つでした。
なお本制度の利用については家庭裁判所が関わる方法と関わらない方法の2種類があり、以下でそれぞれ解説したいと思います。
根拠となる法律条文
本制度に関連する条文は以下になります。
民法
(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
第九百九条の二 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。
民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令
民法(明治二十九年法律第八十九号)第九百九条の二の規定に基づき、同条に規定する法務省令で定める額を定める省令を次のように定める。
民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額は、百五十万円とする。
家事事件手続法
(遺産の分割の審判事件を本案とする保全処分)
第二百条 3 前項に規定するもののほか、家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権(民法第四百六十六条の五第一項に規定する預貯金債権をいう。以下この項において同じ。)を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは、その申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りでない。
家庭裁判所の判断によらない払い戻し
民法第909条の2により、各相続人は各口座ごとに単独で払い戻しの請求ができます。
上記の参考画像の例だと、口座の預金額が600万円、条文に定められた割合が3分の1、長男の法定相続分が2分の1なので
600万円 × 3分の1 × 2分の1 = 100万円
100万円が単独で払い戻しできる上限となります。もしこの口座の預金額が1200万円であった場合、
1200万円 × 3分の1 × 2分の1 = 200万円
計算上は200万円になりますが、法務省令で定められた上限の150万円を超えていますから、実際に払い戻せるのは150万円ということになります。この150万円は各金融機関ごとの上限であり、別の金融機関に預金口座があれば合計で150万円以上を払い戻せる可能性があります。
手続きにあたっての必要書類は、戸籍一式と申請者の印鑑証明書です。本制度では遺産分割前に払い戻し請求ができますから、もちろん遺産分割協議書は必要ありません。
ちなみに本制度で払い戻した金額は、請求者が遺産分割によって相続したものとみなされます。通常問題となることはないと思いますが、「葬儀の支払いに使いたいだけで、1円も相続しないつもりだ」または「相続放棄を考えている」といった方は本制度の利用を控えた方が良いかもしれません。
家庭裁判所の判断による払い戻し
家庭裁判所に遺産の分割の審判または調停の申立てがあった場合 かつ
家庭裁判所が必要と認めたとき
に限られますが、家庭裁判所の判断によって相続人単独での払い戻しが認められることもあります。
この場合は金額に150万円などの上限はなく、「家庭裁判所が認めた額」を払い戻すことが出来ます。
手続きにあたっての必要書類は、審判書謄本と申請者の印鑑証明書です。戸籍一式は不要なのは、家庭裁判所が審判を下す過程で戸籍を確認しており、その確認を踏まえて審判書が発行されているからです(結局のところ、家庭裁判所には戸籍を提出する必要があります)。
まとめ
今回は、遺産分割協議の前でも例外的に被相続人の預貯金の一部を払い戻しできる制度について解説しました。葬儀には数十万から数百万円必要になることを考えれば、急な出費にも対応できる良い制度が整備されたなと感じます。必要書類も請求者が単独で取得できるものだけですので、相続の際にはうまく活用していただきたいと思います。
【参考リンク】
預金相続の手続に必要な書類 | F.銀行で手続き | 一般社団法人 全国銀行協会
民法 | e-Gov法令検索
民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令 | e-Gov法令検索
家事事件手続法 | e-Gov法令検索
【記事を書いた人】司法書士 岩田慎也
1991年、岐阜市生まれ。県立岐阜高校、名古屋大学経済学部を卒業。22歳で司法書士試験に合格。
愛知県の司法書士事務所に約3年間勤め、毎日お客様からの相続・遺言相談に対応。
2020年、岐阜市花園町で司法書士あんしん相続を開業。
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