【記事公開日】令和2年12月10日
【最終更新日】令和2年12月18日(目次追加)
【目次】
配偶者居住権ってどういう制度?
令和2年4月1日から、民法改正により配偶者居住権制度が創設されました。
この制度は、相続が発生した場合に、被相続人の配偶者が自宅に無償で住み続ける権利を保障するための制度になります。
今までは配偶者が自宅の「所有権」を相続すると、それだけで遺産の価額の大半を相続することとなり、今後の生活資金となる預貯金については他の相続人との兼ね合いもあり相続しにくい…といったケースがありましたが、所有権より評価額の低い「居住権」を新設することで遺産分割を行う上でのバランスが取りやすくなりました。
また、次の世代へ所有権を移転させることで、配偶者が認知症等になり意思表示が難しい場合にも家の保守管理をスムーズに行うことができるというメリットもあります。
なおこの制度には、「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」の2種類があり、それぞれ役割と詳細は以下で説明します。これ以降、前者の「配偶者居住権」については区別のため「配偶者長期居住権」と表現します。
配偶者長期居住権(民法第1028条~第1036条)
【権利内容】
建物全部について無償で使用及び収益をする権利
建物取得者に対する登記請求権あり
通常の必要費(災害などによらない現状維持のための修繕費や固定資産税等)は配偶者が負担する
【取得方法】
遺産分割、遺贈、家庭裁判所の調停または審判によって取得する
【取得条件】
配偶者が対象建物に相続開始時に居住していること
被相続人が対象建物を相続開始時に配偶者以外の者と共有していないこと
【権利の存続期間】
終身 または 遺言もしくは遺産分割で定めた期間
配偶者短期居住権(民法第1037条~第1041条)
【権利内容】
建物について無償で使用する権利
登記はできない
通常の必要費(災害などによらない現状維持のための修繕費や固定資産税等)は配偶者が負担する
【取得方法】
条件を満たしていれば自動的に取得する
【取得条件】
配偶者が対象建物に相続開始の時に無償で居住していること
配偶者が配偶者長期居住権を取得していないこと
配偶者が欠格事由または廃除により相続権を失っていないこと
【権利の存続期間】
遺産分割で建物の帰属が確定した日まで または 相続開始から6か月(遅い方)
遺贈による建物取得者の申入れの日から6か月
想定される利用事例
配偶者長期居住権
配偶者長期居住権は、主に遺産分割で相続人同士の財産のバランスを取ることを想定しています。本来、どのような配分で遺産分割をするかは相続人同士で話し合いがつく限り自由ですが、相続人の人間関係や法定相続分を基準として考慮したとき、自宅に加えて預貯金まで相続するのは難しい…ということもあります。しかし、配偶者長期居住権の評価額は元々の建物評価額の半分以下になることもあるため、財産全体に対して自宅の評価額が大半であるような場合に、円満に遺産分割をするための有効な選択肢になります。
他には、被相続人に前妻の子がおり、配偶者(後妻)が生きている間は自宅に住まわせたいが、最終的には前妻の子に相続させたいといった場合に利用されることが考えられます。ただしこちらは信託を利用する方法によっても解決することができます。
配偶者短期居住権
配偶者短期居住権は相続発生後すぐに配偶者が家から追い出されてしまうようなことのないように、6か月程度を基準として暫定的に配偶者を保護するための権利といえます。
利用事例としては、被相続人が建物を第三者に遺贈した場合や配偶者が相続放棄を行う場合に、配偶者は建物取得者に対して配偶者短期居住権を主張することができます(配偶者短期居住権は被相続人の相続財産ではなく、被相続人の死亡を原因として発生する債権ですから、配偶者が相続放棄を行う場合でも有効なものと考えられます)。
配偶者長期居住権の登記
配偶者長期居住権は、対象となる建物について不動産登記をすることができます。居住建物の所有者は、配偶者長期居住権を取得した配偶者に対し、配偶者長期居住権の設定の登記を備えさせる義務を負い(民法第1031条第1項)、その登記は建物を取得した第三者に対する対抗要件となります(同条第2項)。
例えば土地建物の所有権を相続した息子がそれらを第三者に売却してしまった場合でも、登記を備えていれば配偶者長期居住権を第三者に対して主張できることになります。もっとも、通常は配偶者長期居住権が登記されている建物を買う人は現れないでしょうから、そういった万が一のトラブルを予防する意味で登記を備える、ということになります。
【配偶者長期居住権設定の登記に関わるその他の知識】
配偶者(権利者)と建物取得者(義務者)の共同申請
相続による所有権移転登記を先に申請する必要がある
「第三者に居住建物の使用又は収益をさせることができる」等の特約も登記可能
登録免許税は建物の固定資産税評価額の1000分の2(0.2%)
配偶者居住権の評価
配偶者居住権は相続に関わる権利ですから、相続税評価がやっぱり気になりますよね。
国税庁によると、配偶者居住権の評価額の計算方法は以下のようになっています。
一見しただけでは何が何だかわかりませんが、できるだけまとめて言うと、
「建物評価額」から「『配偶者居住権が消滅する未来の時点の建物評価額』を現在価値に割り引いた額」を差し引いた残りが配偶者居住権の価額ということになります。
国税庁や法務省の具体例によっては、(元々の)建物評価額に対して配偶者居住権の価額が半分以下になるケースも見られました。
なお、ここで注意して頂きたいのは、配偶者居住権には建物の敷地利用権も含まれていますので、こちらも配偶者が相続する財産の価額に含まれることになります。
さらに詳細が知りたい方は参考リンクの国税庁ホームページを確認するか、税理士による解説記事を検索してみてください。
まとめ
今回は配偶者居住権の制度について説明しました。
現代の相続事情に対応し、遺産分割の選択肢が広がる良い制度だと思います。
しかし、本制度にこだわらずとも別の方法で問題が解決できる場合も考えられますので、利用の検討は専門家を交えた上で行われることをお勧めします。
【参考リンク】
民法 | e-Gov法令検索 (配偶者居住権の条文は民法第1028条から)
法務省:残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。
No.4666 配偶者居住権等の評価|国税庁
「配偶者居住権等の評価に関する質疑応答事例」について(情報)|国税庁
【記事を書いた人】司法書士 岩田慎也
1991年、岐阜市生まれ。県立岐阜高校、名古屋大学経済学部を卒業。22歳で司法書士試験に合格。
愛知県の司法書士事務所に約3年間勤め、毎日お客様からの相続・遺言相談に対応。
2020年、岐阜市花園町で司法書士あんしん相続を開業。
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