パンフレット「株主名簿を整備しましょう!」
日本司法書士会連合会
商業登記・企業法務対策部
平成28年10月1日から、株式会社の登記の申請にあたり、登記すべき事項に株主総会の決議を要する場合等の一定の場合に、添付書面として、「株主リスト」が必要とされています(商業登記規則第61条第2項・3項)。「株主リスト」を作成するには、株主の氏名又は名称及び住所、各株主が有する株式の数、議決権数等の情報が必要となりますが、皆さんは、どのような資料に基づいて「株主リスト」を作成しているでしょうか。
「株主リスト」の作成だけではありません。事業承継やグループ会社の再編等に関与する際にも、会社の株主の構成等を確認することは重要ですし、株式会社であれば定期的に登記の申請が必要となる、任期満了に伴う役員改選等に関する株主総会議事録を作成する場合も、株主構成の確認が必要となります。たとえば、会社の社長や株主総会運営担当者からの「株主3名全員が出席した。株式は社長が7割保有しており、残りを2名の株主が半分ずつ保有している。」といった聴取事項をもとに、発行済株式数を、そのまま出席した株主の有する株式数や議決権を有する株主の議決権の総数として記載してよいのでしょうか。もしかしたら、会社は自己株式を保有しているけれど、社長や株主総会運営担当者は、会社自身を「株主」とはとらえていないかもしれません。
それ以外の場面でも、会社の株主がどこの誰であるのか、どのくらいの株式を保有しているのか等の情報は、会社の法務に関する検討を行う場合には、極めて重要な情報です。こうした情報は、会社が作成する「株主名簿」に記載されています。しかし、残念ながら、法律上定められた内容が網羅された「株主名簿」を作成していない中小企業も見受けられ、作成している会社においても、株主に異動があった場合等に、そうした情報を、法令や定款の規定に基づいて、適切に「株主名簿」に反映しているとはいえないケースも少なくないのではないでしょうか。そうした会社に「株主名簿」関係を整備していただくことは、中小企業を支援する法務の専門家としての司法書士の重要な役割だと考えます。
こうした支援にご活用いただきたく、令和元年(2019年)6月21日付日司連発第317号『「株主名簿を整備しましょう」「定款を見直しましょう」のチラシの送付について(お知らせ)』において、対外向けの広報チラシと「株主名簿」の整備にあたってご利用いただけるひな形を案内させていただきました。皆様の顧客である中小企業の支援にお役立ていただきたく、簡単な説明も加え、あらためてお知らせする次第です。
会社に株主名簿を備え置いていますか?
(1)会社の義務
①「株主名簿」の備え置き
株式会社は、一定の法定事項(株主名簿記載事項)を記載し、又は記録した「株主名簿」を作成し(会社法第121条)、これを会社の本店に備え置かなければなりません(同法第125条第1項)。株主名簿のサンプルは、令和元年(2019年)6月21日付日司連発第317号『「株主名簿を整備しましょう」「定款を見直しましょう」のチラシの送付について(お知らせ)』(以下「お知らせ」という。)の参考資料をご参照ください。
②閲覧等の請求に応ずる義務
株主及び債権者は、会社の営業時間内は、いつでも、「株主名簿」の閲覧又は謄写、「株主名簿」が電磁的記録をもって作成されているときは、記録された事項を表示したものの閲覧又は謄写の請求をすることができ、会社は一定の事由に該当する場合を除き、これを拒むことができません(会社法第125条第2項及び第3項)。
③株主名簿記載事項を記載した書面の交付
定款に株券を発行する旨を定めていない株式会社の株主は、株主名簿に記載され、又は記録された自己についての株主名簿記載事項を記載した書面又は記録した電磁的記録の提供を請求することができ、会社は、当該書面又は電磁的記録に代表者が署名若しくは記名押印、又は電子署名をして交付又は提供しなければなりません(会社法第122条)。
(2)義務に違反した場合
(1)に記載された義務に違反した場合、(代表)取締役は100万円以下の過料に処せられる旨が会社法に規定されています(会社法第976条第4項、第8項)。こうした過料は、会社に対してではなく、(代表)取締役個人に対して科され、登記されている(代表)取締役の住所宛に通知がなされます。
株主に異動があった場合、株主名簿の書換えをしていますか?
(1)株主に異動等があった場合
①株式の譲渡があった場合
株主は、その所有する株式を譲渡することができます(会社法第127条)。譲渡による株式の取得について、会社の承認を要する旨を定款に定めることはできますが、譲渡すること自体を禁止する定めを置くことはできません。譲渡による取得について会社の承認を要する旨を定めた場合に、譲渡による取得を承認をするよう請求があったときは、一定の手続が必要となります。承認しないこともできますが、承認を請求する株主又は譲渡人は、請求する際、承認しない場合は会社自身による買い取り、あるいは、買い取る者を指定するよう請求することができます。こうした手続きにより、株式を取得した者(会社自身を除く)は、「株主名簿」の書き換えを請求することになります。
②株主に相続があった場合
株式は財産権として、相続の対象となります。株主に相続があった場合、遺言や遺産分割等の手続を経て、死亡した株主の所有していた株式を取得する者が定まります。相続があり、遺産分割の協議が確定しないため具体的な相続人が確定しないような場合、株主の相続人は、いったん、相続人全員名義に「株主名簿」の書き換えを請求し、具体的な相続人が確定した際、あらためて当該相続人名義に書き換えの請求をすることができますし、具体的な相続人が確定した際、直接、当該相続人名義に書き換えを請求することができます。また、具体的な相続人が決まらない間に、株主としての権利行使をする必要がある場合、権利行使者を定めて、会社に通知し、権利を行使する場合もあります。
③株主の住所等に変更があった場合
株主に住所等の変更があった場合、株主は「株主名簿」の記載又は記録を変更するよう請求することになります。会社が行う株主に対する通知等は、「株主名簿」に記載又は記録された住所(通知場所を別に登録している場合はその場所)にすれば足りるため、この記載又は記録を変更しておかないと、会社からの通知等が届かない恐れがあるからです。
(2)株主名簿への記載又は記録の請求
(1)のように株主に異動等があった場合は、株主は「株主名簿」に記載又は記録をするよう請求することになります。会社としても、株主関係を管理する上で、「株主名簿」をアップデートしておくことは有意義なはずです。そして、瑕疵のない手続で「株主名簿」の書き換えを行うことは、株式に関するトラブルの防止の観点からも望ましいことでしょう。顧客である会社から、こうした場合の相談を受けた際は、ぜひ、「お知らせ」の参考資料をご活用ください。
経営者や後継者以外の方が株主となっていませんか?
経営者や、将来その会社の経営を承継する予定の後継者以外の方が株式を保有している場合、円滑に経営を継続していくうえで、必要な場合は当該株式を買い取ることの検討も必要かもしれません。たとえば、株式を保有していた役員や従業員が退任、退職した場合、あるいは、株式を保有していた重要な取引先との取引がなくなった場合や、取引が継続しているとしても、その取引先の経営者が変わった場合、そうした株主は今後も会社の経営に協力してくれるでしょうか。退任した役員や退職した従業員に相続が発生し、会社の株式が相続されることもあるでしょう。その相続人は会社の経営に協力してくれるでしょうか。経営者やその後継者以外に株式が分散している場合は、たとえば、次のようなリスクが生ずる場合もありますので、必要に応じて、会社や経営者あるいはその後継者が当該株式を買い取る等の検討をしたほうが良い場合があります。会社の株主の状況を把握する前提として、「株主名簿」を整備し、管理することは、そうしたリスク管理の第一歩となります。
(1)リスクその1「決議要件」
経営者及びその後継者以外の株主が会社の株式の議決権の過半数を保有している場合は、経営者とその後継者のみで株主総会の決議を成立させることができないことになり、円滑な経営を妨げる原因にもなり得ます。また、経営者とその後継者で過半数の議決権を保有していたとしても、経営者とその後継者以外の株主の議決権が3分の1を超えている場合は、経営者とその後継者のみで株主総会の特別決議(会社法第309条第2項)を成立させることができないことになり、株主総会で重要な決定をすることができないこともあり得ます。
(2)リスクその2「株主としての権利」
経営者及びその後継者以外の株主が、たとえ1株しか保有しておらず、株主総会の決議の成立には影響しないような場合であっても、株主であれば行使できる権利があります。 たとえば、グループ会社の組織を見直すため、会社を合併しようとした場合に、1株しか保有していない株主が反対することもあります。この場合、当該株主は、株式を買い取るよう請求することができるだけでなく、一定の場合には、合併自体をやめるよう請求することもできます。もちろん、当該請求により、必ず合併ができなくなるわけではありませんが、会社、経営者及び後継者はそれに対応することが必要となります。
それ以外にも、株主総会議事録や取締役会議事録等の閲覧権や、取締役会を設置していない会社では、1株しか保有しない株主であっても、株主総会の議題の提案権もあります。
また、保有する株式を会社にとって好ましくない者に譲渡することも可能で、仮に当該株式の譲渡による取得を会社が承認しない場合であっても、当該株式の買取り請求に対応しなければならないことも想定されます。
名義株はありませんか?
(1)名義株とは
名義株とは、真実の所有者と名義上の所有者が異なる株式のことをいいます。たとえば、平成2年の商法改正までは、会社を設立する際、7名以上の発起人が必要でした。しかし、実際に出資者を集めることが難しいケースもあり、親族や従業員等から名義を借用して発起人とする場合もあったようです。こうしたケースで名義株が生じ、そのまま解消されずに現在に至っている会社も存在し、現在は、そうした名義株主と没交渉となっていることも少なくありません。
(2)名義株の所有者(真実の株主)は誰か
名義株について、最高裁は、実際に出資をした者を株主であるとしています(昭和42年11月17日最高裁第2小法廷判決)。しかし、古い会社であれば、実際に出資したことを証明するための資料が廃棄されてしまっていたりして、証明することができない場合もあります。そうした状況の中、当該名義株主が株主として株主総会に参加し、議決権を行使したことが内容に含まれる株主総会議事録が存在していたり、あるいは、剰余金の配当をしたこともあったりすると問題は複雑になります。
(3)名義株の解消
名義株がある場合、資料を収集する等して、これまでの経緯を確認することが重要になると思われます。そのうえで、名義株主と交渉し、場合によっては、当該株主から株式を買い取る等の対応をすることになるでしょう。そうした手段をとる上で、名義株主がどこの誰であるのか、また、名義株主と連絡をとることができるのか、という点は最初に必要となる情報です。そうした意味で、「株主名簿」の整備は名義株の解消の第一歩といえるでしょう。
所在が不明の株主はいませんか?
(1)所在不明株主とは
所在不明株主とは、読んで字のごとく、所在がわからない株主です。株主が、転居をしたにもかかわらず、会社への届出をしていない場合や、会社の株主に相続が発生したにもかかわらず、当該株主の相続人が当該株式が遺産に含まれていることを把握しておらず、株主名簿の書き換えの請求をしていないこと等が原因となって生ずることがあるようです。
(2)所在不明株主の権利
所在が不明の株主の場合、会社は、必要な通知等は株主名簿上の住所に行えば足りることになっています。しかし、所在不明株主であっても、株主としての権利は他の株主と変わりはありません。通知等は株主名簿上の住所に行わなければなりませんし、会社が剰余金の配当等をした場合、配当金は原則として持参債務であり(会社法第457条)、場合によっては、供託することも検討が必要となります。なお、株主に対する通知等は、5年以上継続して到達しない場合は、通知等は要しないとされています(同法第196条第1項)。
(3)所在不明株主の解消
所在不明株主の解消の方法としては、会社法第197条の規定により、当該株主名義の株式を競売や任意売却し、その代金を所在不明株主に交付する方法があります。しかし、株主名簿上の住所に5年以上継続して通知等が届かないことや剰余金の配当を受領しないことが要件であり、実際にこの方法をとる場合は、そうした事実を裁判所に疎明する必要があります。よって、疎明資料をもれなく収集・保管する必要があります。「株主名簿」が適切に整備・管理されていないと、こうした方法もとることも難しくなります。「株主名簿」を整備することは、所在不明株主の解消の第一歩ということができるでしょう。
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